マンスリーレポート

◆ 2014年度 第12回
建築士ほかが語るすまいについてのあれこれ 〜心地よい暮らしを探る〜

 今年度最後の講座は、「建築士ほかが語るすまいについてのあれこれ」というテーマで、運営委員の今任晴夫さん、梅田誠亮さん、そして小峠敏幸さんの3人が、各人が設計、施工された住宅の紹介や、すまいについての考えを語りました。
予め3人のプロフィールが記載された書面や質問票が受講者に配布されていました。

 まず、最初は今任さんです。今任さんは、住宅メーカーのM社に勤務され、定年退職後に「今任空間工作所」を設立され、古民家や住宅の改修を手掛けておられます。「数百棟を建築して思うこと」という資料で、これまでの多くの住宅建築体験からの考えを表明されました。住宅を「プレハブ」「伝統木構法」及び「循環型在来木造」に分類され、それぞれのキーワードと特徴を説明されました。「プレハブ」は科学、再現性、現場に熟練者はほとんどいらない、「伝統木構法」は芸術、オンリーワン、知恵と経験、「循環型在来木造」はプレカットあり、自然素材を使用、などです。そして、多くの経験を積んだ今任さんは、「伝統木構法」のことを強調されました。「伝統木構法」は、日本の森林で育った無垢の木を天然乾燥して使う、金物で接合せず木を組んで使う、職人の手作り、日本文化、とのことです。
福井県の古民家を是非残したいと思っていた所有者へリフォームを提案したところ、見積りもしていないのに「まいった。気に入った。お願いする。」と言われ本人も吃驚した経験があるとのこと。写真を見ると内部は無垢の木をふんだんに使った木の香りが漂ってくるようなお家です。1尺の通し柱や間接照明・・住まいのリフォームコンクールで賞をもらったそうです。古民家改修のお話は、マンション住まいの身にはうらやましい限りです。
M社の家は阪神大震災でも倒壊しなかったことや、南極の昭和基地でも建てられたことなども紹介されました。芦屋の資産家の豪邸を出来るだけ今ある木を残して建築したお話もありました。今任さんは、これまで住宅建築を通じて多くのお客さんと巡り合い10年後には必ず年賀状で住宅の状況等を確認しているそうです。心からのお付き合いを大事にされている姿勢が、長く良好な関係を築くことにつながっていると思います。

 次に、梅田さんです。昭和27年に先代が「梅田建築」を創業、平成元年に「(株)梅田工務店」を設立し、現在同社専務取締役で、住宅・社寺の設計・施工・監理をされています。小学校3年生の時に町内に建築された、道路に向かって切り妻が3段階で軒の出が当時ではかなり深い住宅が、子ども心に深く残っており、平成16年に設計施工した数寄屋2世帯住宅にも反映させたとのこと。写真を見ると、妻面が幾重にも重なったデザインとなっています。この家にはおばあさんがいて、どうしてもお葬式は自宅でという思いがあり、梅田さんのお話では、会葬者が土間縁から入って行き、焼香を終えると玄関先で粗供養を受け取る、というような葬儀の流れを考慮した設計になっているという冗談半分?の説明がありました。数寄屋建築らしい住宅で、角柱を省いた和室や、床の間や書院に様々な工夫が凝らされ、また、階段や手摺り、書院にも「丸のデザイン」をふんだんに取り入れています。どのようにして木を丸く曲げるのかという疑問がわきますが、梅田さんから丸い木の作り方を写真と図面で説明がありました。(1)直材の両端を固定して中心部を下から押し上げて、間柱で吊り上げて彎曲させる。(2)1本の木から曲線状に切り取る。(当然むだな切れ端が生じてしまう。)(3)1本の木を何枚にもスライスして、それを曲げて重ねた状態で接着剤で接合する。これらの方法で曲面状の天井も作っておられます。驚きます。また、屋根にもむくりを付け、出隅部の面格子も彎曲させているそうです。
大東市の御領の家では、瓦屋根で小舞ケラバを作成し、垂木や軒鼻などに大工さん泣かせの技巧があり、昔から社寺建築で『大工と雀は軒で泣(鳴)く』と云われてきた様にかなり大工さんが泣いたそうです。先般見学会があった奈良の中登美ケ丘の家は、書院に網代天井などのデザインが施され、また間接照明で立体感を出すなど種々の工夫があります。また、現在施工中の若葉台の現場では、設計図と現場ではやはり現地に立つと高さなど種々感覚的に異なることがあるので、実際の軒高がわかる定規を作り、人知れず夕闇時に現場確認をしにいったそうです。多くの数寄屋建築の写真を見せてもらいました。梅田さんの数寄屋建築への思いにあふれたお話でした。

 最後は、小峠さんです。小峠さんは、平成元年1月11日の1並びの日に「コミュニティ建築事務所」を設立され、現在まで住宅の設計・監理をされてきました。その他に、大阪府建築紛争審査会の特別委員や、住宅瑕疵担保責任保険現場検査員等の仕事もされていますが、こちらはボランティア的なものが多いそうです。まず、作品の紹介ですが、既存の住宅に7畳ほどの増築部分を梅田工務店で施工した住宅の紹介がありました。雑貨屋さんですが、町並みにマッチしたとの思いがあるとのこと。枕木や木を使ったアプロ−チもあります。小峠さんの家づくりの基本は、柱、梁をあらわしで造る、古材を購入し構造材をできるだけ見せるようにする、収納の中は杉を使用し調湿効果を図る、洗面所など湿気の多いところにも壁、床に杉を使う、引き戸を多用する、ロフトの高位置に窓を設け夏場の熱を逃がす(窓は下階から開閉できるようにしておく)等々とのことです。設計された住宅の写真を見ると、これらのことが実践されているのがよくわかります。樹齢200年の秋田杉を調達し、加工してテーブルにした家、床や階段の残材をそのままの形でドアの取手につかった家、松の丸太5mものをリビングの上に架けた家、無用な通過をしなくてよいような動線を考え、廊下をほとんどなくした家等の事例の紹介がありました。無垢の木の家はやはりいいですね。小峠さんは、大正14年築の大阪市阿倍野区阪南町の大阪市月賦住宅の耐震改修を検討されています。外壁はそのままで、道路は住民の合意で未舗装です。土地25坪、建物18坪で当時4,000円とのことです。新築になるかもしれないとのこと。

 

 3人のお話が終了し、小憩後、休憩中に受け付けた質問への回答と3人の意見交換(「3人3色」)に移りました。断熱に関するご質問には、小峠さんから屋根裏に断熱する通気工法の説明がありました。引渡し後のメンテナンスの質問には、梅田さんから外壁については12〜13年で塗替えの時期が来るが、無垢の木は引渡し時よりもその後に味が出てくる、経年変化が楽しめる、特にピーラ(米松)は赤くきれいになってくる、とのお話がありました。「3人3色」では、業界に入った動機の話で、今任さんは、M社からの度重なる勧誘があったとのことでした。また、それぞれ設計士、施工者の立場から相手方への感想や要望が話されました。設計者から工務店への一方的な要求ではなく、1軒の家を創るという1つの目的を共有するパートナーとしてお互い認めことが大事ではないか、という話がありました。 また、お客さんとの関係では、大工さんをおだててくれたらいい家が出来ると梅田さんは話されました。夜中に長時間電話してくるお客さんには困った、と今任さん。小峠さんは、 竣工直前に「イメージが違う」「もっと大きい家と思っていた。」というお客さんがあり、事前に充分なコミュニケーションが必要、という話がありました。最後に、小峠さんから「普請中は口をださないこと。・・・」という小堀遠州の言葉の紹介があり終了しました。

 今回で2014年度が終了しますが、毎回多数の方にご参加いただき大変有難うございました。
4月からは、「すまいをトーク」設立10周年目に入ります。皆様方の暖かいご支援により長く継続することができました。重ねてお礼申し上げます。今後ともご協力の程よろしくお願いいたします。
(報告:中村 忠夫)